鈴の音がする。
「ちりちり」という澄んだ音でも、「ぐわらんぐわらん」という大業な音でもない、ただただ安っぽい音である。
自分はその音に聞き覚えがあった。はてどこで聞いたのだったかしらんとちょいと首を傾げると、なるほどそれは家の鍵につけている鈴の音だった。
とあるうさぎのキャラクターの顔を模した鈴である。そいつには胴体がない。ただ頭だけが「からころ」と鳴る。
自分は居間のソファーに座ってテレビを眺めていた。居間と玄関との間には薄い木の扉がある。鈴の音はその扉の向こう、玄関から聞こえてくる。
自分は家にいる。だのに鈴の音がする。鍵につけている鈴の音が。
立ち上がって居間の扉を開けてみる。居間を出るとすぐに玄関の扉が見える。緑色の塗装の剥げかかって錆びついた、やたらと重たい扉である。
その扉が少しばかり開いていた。扉の奥は闇である。闇の上の方には小さな光が二つ点っていて、ぎらぎらとこちらを凝視している。下の方からにゅっと突き出されたものは、それとは対照的に鎮静な光を携えている。
鈴の音は聞こえなくなっていた。
あの包丁も我家のものかもしれない。