鈴の音が

 

 鈴の音がする。

 

 「ちりちり」という澄んだ音でも、「ぐわらんぐわらん」という大業な音でもない、ただただ安っぽい音である。

 自分はその音に聞き覚えがあった。はてどこで聞いたのだったかしらんとちょいと首を傾げると、なるほどそれは家の鍵につけている鈴の音だった。

 とあるうさぎのキャラクターの顔を模した鈴である。そいつには胴体がない。ただ頭だけが「からころ」と鳴る。

 自分は居間のソファーに座ってテレビを眺めていた。居間と玄関との間には薄い木の扉がある。鈴の音はその扉の向こう、玄関から聞こえてくる。

 自分は家にいる。だのに鈴の音がする。鍵につけている鈴の音が。 

 立ち上がって居間の扉を開けてみる。居間を出るとすぐに玄関の扉が見える。緑色の塗装の剥げかかって錆びついた、やたらと重たい扉である。

 その扉が少しばかり開いていた。扉の奥は闇である。闇の上の方には小さな光が二つ点っていて、ぎらぎらとこちらを凝視している。下の方からにゅっと突き出されたものは、それとは対照的に鎮静な光を携えている。

 

 鈴の音は聞こえなくなっていた。

 あの包丁も我家のものかもしれない。 

 


2012年